人の血液が蚊にとって「毒」になる──そんなSFのような話が、ついに現実になりつつある。
2025年3月に発表された最新の研究によれば、ある薬を飲むだけで、私たちの血液が蚊を殺す効果を持つというのだ。
この薬の名前は**「ニチシノン」。もともとは希少な遺伝病の治療薬**として開発され、現在も実際に使われている薬だが、その成分が「蚊を死に至らせる」という驚くべき作用を持っていることが、最新の研究で明らかになった。
どうやって蚊を殺すの?──血液に毒が生まれる仕組み
ニチシノンは、ある特定の酵素をブロックする薬だ。この酵素は、チロシンというアミノ酸を体内で処理するときに重要な働きをしている。
人間にとっては、この酵素をブロックすることで病気の原因物質の蓄積を防ぐのが目的だ。しかし、蚊にとってこの酵素は「血を消化する」ために欠かせないもの。
つまり、ニチシノンを服用した人の血を吸った蚊は、血液をうまく処理できず、数時間で死んでしまうのである。
さらに驚きなのは、効果が最長で16日間も持続する点だ。たった一度の服用で、その後しばらくは「毒の血」を保てるというわけだ。
なぜこの薬に注目が集まっているの?
これまでにも、蚊を殺す目的で人に投与される薬は存在した。イベルメクチンがその代表例だ。
だが、イベルメクチンには2つの大きな問題がある。
- 蚊が耐性を持ち始めている
- 効果の持続時間が短い(数日)
ニチシノンは、これらの弱点を補える可能性を秘めている。蚊が耐性を持ちにくく、しかも長時間効果が続くという点で、今後のマラリア対策において重要な役割を果たすかもしれない。
実験で分かったこと──どのくらいの量が必要?
研究チームの実験によると、ニチシノンを1日2mg服用するだけで、血液に蚊を殺す力が備わるという。
この量は、現在病気の治療に使われている量よりもはるかに少ない。つまり、人の体にとっては比較的安全な範囲で効果が得られる可能性があるのだ。
「自分を守る」薬ではなく「みんなを守る」薬
ニチシノンの特徴は、「マラリアを防ぐワクチン」のように個人の免疫力を高めるのではなく、蚊の個体数そのものを減らすという点にある。
例えば、ある地域で多くの人がニチシノンを服用すれば、蚊が吸血するたびに死んでしまい、マラリアを媒介する蚊が減少する。これはいわば、「毒入りの人間が歩き回って蚊を駆除する」という状態だ。
研究者たちは、この方法が特にイベルメクチンが効かなくなった地域で効果を発揮する可能性があると指摘している。
でも、課題もある
ニチシノンがマラリア対策として活躍するには、まだいくつかのハードルがある。
- 薬が高価で、大量投与には向かない(将来的には価格を80%下げられる可能性も)
- 自分を守る薬ではないため、飲んでもメリットが見えにくい
- 蚊の耐性が将来的に生じる可能性がある(ただし現時点では未確認)
また、現在はまだ野外実験の段階であり、本格的に導入されるにはさらに多くの研究と地域ごとの最適化が必要だ。
アイデアは進化する──人間だけじゃない
将来的には、人に薬を飲ませるだけでなく、
- 家畜にニチシノンを投与し、**「毒の血をもつ餌」**にする
- 殺虫成分入りの蜜を袋に詰めて、蚊が花のように寄ってきて死ぬようにする
といった手法も考えられている。
こうした多面的な取り組みで、マラリアに立ち向かう力が広がっている。
親子トークタイム!子どもに伝える方法
「蚊をやっつける薬」と聞くと、スプレーや蚊取り線香を思い浮かべるかもしれないけど、体の中に蚊を殺す力を入れるってちょっとすごい話。
子どもにこう話してみよう!
「ある薬を飲むと、その人の血が蚊にとって毒になるっていう研究があるんだよ。
蚊がその血を吸うと、体の中でうまく消化できなくなって死んでしまうんだって。
この薬は、飲んだ人が直接病気を防げるわけじゃないけれど、蚊がいなくなればマラリアも広がりにくくなる。
つまり、自分のためというよりも、まわりのみんなのために使う薬なんだ。
こうやって、みんなが少しずつ協力することで、大きな病気を防ぐ方法もあるんだよ。」
まとめ
- ニチシノンは、人間の血液に蚊を殺す効果を与える薬で、もともとは希少病の治療薬
- イベルメクチンより効果が長く、耐性もつきにくいとされ、マラリア対策の新たな武器として注目されている
- 自分を守るのではなく、地域全体の蚊の数を減らすという発想で、集団対策に向いている
- 高コストや投与の動機づけなど、社会的な課題も残る
- 将来的には、人間・家畜・蜜袋など多様な活用法が検討されている