「目の前で5人がひかれそう。でも、レバーを引けば1人が犠牲になる。」
たった1つの選択が、人の命を左右する──このシンプルで残酷な問いが「トロッコ問題」です。
この問題は、もともと哲学の思考実験として提案されたもので、長年にわたり倫理学の中心的なテーマとして議論されてきました。
しかし近年、AIや自動運転、医療、教育など、現実の社会問題とも深く関わるようになり、再び大きな注目を集めています。
この記事では、「トロッコ問題とは何か?」を初めての方でも理解できるようにやさしく解説します。
さらに、「正解はあるの?」「哲学的にはどう考えるの?」といった疑問にも答え、親子で考えるためのヒントもお届けします。
ゲームやAI、性格診断など応用的な話題については、記事の最後でご紹介する関連リンクをご覧ください。
トロッコ問題とは?その基本構造を解説

トロッコ問題(英:Trolley Problem)は、1976年にイギリスの哲学者フィリッパ・フットが提起した思考実験です。
問題のシンプルな形
あなたは線路の分岐点に立っている。
このままだとトロッコは5人の作業員がいる線路に進み、彼らをひいてしまう。
しかし、あなたがレバーを引けば、トロッコは別の線路に進み、そちらには1人の作業員がいる。あなたはレバーを引くべきだろうか?
「レバーを引く=1人を犠牲にすることで5人を救う」
「引かない=自然に任せて5人が犠牲になる」
どちらもつらい選択ですが、どちらかを選ばなければならない状況に置かれるのが、この問題の核心です。
なぜこの問題が重要なのか?
一見、単なる倫理クイズのように思えるかもしれません。
しかしトロッコ問題は、実際には私たちの道徳観・判断力・価値観を鋭く問う、深い問題です。
人間の判断には、以下のような複雑な要素が絡みます。
- 感情と論理:助けたい気持ち vs 犠牲への罪悪感
- 行為と結果:行動する責任 vs 何もしない責任
- 法と道徳:法律的な正しさ vs 倫理的な正しさ
さらに現代では、自動運転車が交通事故の際に「誰を優先するか」といった決断をAIが下すことになり、トロッコ問題は現実社会の問題へと移行しています。
だからこそこの問いは、今の時代に生きる私たちが避けて通れないテーマなのです。
功利主義と義務論の視点から考える
トロッコ問題を倫理的に考えるとき、代表的な2つの立場が存在します。
功利主義(多数を救う)
ジェレミ・ベンサムやジョン・スチュアート・ミルに代表される思想で、
「最大多数の最大幸福」を重視します。
この考え方に従えば、「1人を犠牲にして5人を救う」ことは合理的で正しい判断です。
「1人が犠牲になるのは悲しいが、5人を助けるほうが全体として善である」
という発想です。
義務論(人間の尊厳を守る)
一方、イマヌエル・カントの義務論では、手段として人を扱うことは絶対に許されないとされます。
この考え方では、たとえ5人を救えるとしても、意図的に1人を犠牲にする行為は不道徳です。
「人を“使って”他人を救うことは、たとえ結果が良くても間違っている」
というのが義務論の立場です。
この2つの視点は、倫理学のあらゆる場面でぶつかり合う基本構造であり、トロッコ問題はその縮図と言えるでしょう。
トロッコ問題に正解はあるのか?
結論から言えば、「これが正解だ」と言える唯一の答えは存在しません。
なぜなら、この問題の目的は「どちらを選ぶか」ではなく、**「なぜそう考えるのか」**を深掘りすることにあるからです。
人によって揺れる答え
- 同じ人でも、時間や状況によって答えが変わることがあります。
- 他人なら1人を犠牲にできても、それが友人や家族だったらどうでしょう?
- 自分自身が犠牲になるとしたら?
このようなバリエーションが、数多くの派生問題や応用へと広がっていきます。
その一部は、こちらの記事(トロッコ問題の派生・類似まとめ)でも詳しく紹介しています。
AIや自動運転に応用されるトロッコ問題

現代では、トロッコ問題は技術倫理の文脈でも重要なテーマです。
たとえば自動運転車が事故を避けられない場面で、
- 車内の乗員を守るか?
- 道路上の歩行者を優先するか?
という判断が求められます。これは、まさに「現代のトロッコ問題」なのです。
AIや倫理設計に興味がある方は、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。
親子トークタイム!子供に伝える方法
この問題はシンプルである分、子どもにも伝えやすい構造を持っています。
とはいえ、「人が犠牲になる話」はセンシティブなので、伝え方には配慮が必要です。
大切なのは、「どっちが正しいか」を押しつけることではなく、「どうしてそう思ったのか?」を一緒に考えることです。
子供にこう話してみよう!
「ある電車が線路の上を走っていて、このままだと5人がひかれてしまうんだ。
でも、あなたがレバーを引けば、1人のところに進むから、その人がひかれて5人は助かる。
どうするのがいいと思う?」
「どっちがいいとかじゃなくて、そう思ったのはなぜ?」と理由を聞くことで、子どもなりの考え方や感受性が見えてきます。
まとめと関連記事案内
トロッコ問題は、「命の価値」「選ぶ責任」「行動の道徳性」といった深いテーマを私たちに問いかける思考実験です。
正解がないからこそ、自分自身の価値観と向き合うことができる。
そしてそれは、大人にとっても、子どもにとっても、とても大切な経験です。
応用編も学びたい方は、以下の関連記事もぜひご覧ください。
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