ニュースや教科書でよく登場する「iPS細胞」と「ES細胞」。
どちらも「万能な細胞」として注目されていますが、作り方・使い道・倫理的な考え方などに大きな違いがあります。
しかもその違いは、「医療の未来」だけでなく、「生命のあり方」や「人としての考え方」にまで関わってきます。
この記事では、ことばだけでわかるシンプルな比較を通じて、iPS細胞とES細胞の違いをやさしく、でも深く解説します。
また、これまでに公開した【親子で学ぶiPS細胞シリーズ】の関連記事も紹介しながら、再生医療を幅広く学べる構成になっています。
まず押さえておきたい「幹細胞」の基本
iPS細胞もES細胞も、「幹細胞」というグループに入ります。
幹細胞とは、いろんな細胞に変身できる力と、自分を増やす力を持った特別な細胞のことです。
私たちの体は、皮膚、血液、心臓、脳など、さまざまな細胞でできていますが、もとをたどればすべて幹細胞から生まれています。
ES細胞とは?命のはじまりから生まれた万能細胞
ES細胞(胚性幹細胞)は、受精卵から取り出された細胞です。
体外受精でできた受精卵が数日間成長したあと、その一部から取り出して培養します。
- 作り方:受精卵(ヒト胚)から取り出す
- 特徴:あらゆる細胞に分化できる(多能性)
- 使い道:研究・創薬・一部の臨床研究
- 倫理的問題:命のはじまりを使うため、倫理的な議論が常につきまとう
iPS細胞とは?大人の細胞から生まれた“人工の万能細胞”
iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、大人の皮膚などから採取した細胞に遺伝子を加え、“リセット”して作られた万能細胞です。
これは2006年に山中伸弥教授によって発明され、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
- 作り方:皮膚や血液などの体細胞に遺伝子を導入
- 特徴:ES細胞と同様、あらゆる細胞に変化できる
- 使い道:再生医療、創薬、病気のメカニズム解明など
- 倫理的問題:受精卵を使わないため、倫理面のハードルが低い
比較ポイントで整理:iPS細胞 vs ES細胞
比較項目 | ES細胞 | iPS細胞 |
---|---|---|
作成元 | 受精卵 | 皮膚や血液などの体細胞 |
多能性 | 高い(全身の細胞になれる) | 高い(ほぼES細胞と同等) |
倫理的課題 | あり(生命の始まりを使用) | 比較的少ない |
拒絶反応の有無 | あり(他人の細胞を使用) | なし(自分の細胞から作れる) |
技術の確立度 | 古くから安定した研究がある | 比較的新しいため検証中 |
臨床応用の状況 | 一部で研究段階 | 日本を中心に臨床試験が進行中 |
医療現場ではどう使われている?
ES細胞は主に創薬や基礎研究で使われており、人への治療は一部の例外を除いて制限されています。
一方で、iPS細胞は臨床研究や治験として、実際の治療に応用されはじめています。
以下の記事で詳しく紹介しています:
🔗 iPS細胞の実用化はいつ?未来の医療をわかりやすく解説
🔗 iPS細胞で臓器はつくれるの?再生医療の最前線
倫理と科学、どう向き合うべき?
ES細胞は「命のはじまりを使う」ことによる倫理的な議論が続いています。
iPS細胞はその問題を回避できるとされますが、それでも「生殖細胞をつくることは?」といった新たな問題が出てきています。
詳しくはこちらの記事で掘り下げています:
🔗 iPS細胞の問題点って何?親子で考える生命と倫理
【おやこトークタイム!】子どもに伝える方法
科学の発見はどちらもすごいけれど、どう使うかがもっと大切。
違いをただ比べるだけではなく、「その違いをどう考えるか?」が親子で話すポイントになります。
子どもにこう話してみよう
ES細胞は“命のはじまり”から作った細胞で、いろんな細胞になれる力があるんだ。
iPS細胞は、大人の細胞から作られた“人工的な万能細胞”で、自分の細胞からも作れるよ。
どっちもすごいけど、「どう作ったか」「どう使うか」で考えないといけないことがたくさんあるんだよ。
まとめ
科学を知るだけでなく、「使い方」「社会とのつながり」も一緒に考えることが大切
iPS細胞とES細胞は、どちらも「万能な幹細胞」だが、作り方・倫理・応用の幅に違いがある
iPS細胞は皮膚や血液などから人工的に作られ、倫理的な課題が少ない
ES細胞は受精卵から作られ、長い研究の歴史と安定した実績があるが、命の扱いに議論がある
医療現場では目的に応じて両者が使い分けられている