iPS細胞は、未来の医療を変えるすごい技術として世界中で注目されています。
けれど、どんなに優れた技術にも「乗りこえなければいけない課題」があります。
この記事では、iPS細胞にどんな問題点や倫理的な議論があるのかを、わかりやすく紹介します。
親子で「科学と社会」のつながりを考える、きっかけにしてみてください。
技術としての問題点とは?
まず、iPS細胞が持つ科学的・医学的なリスクについて見ていきましょう。
1. がん化のリスク
iPS細胞は、非常に強い「増える力(増殖性)」を持っており、うまくコントロールしないと、腫瘍やがんになる可能性があります。
とくに、作成に使われる遺伝子の中には、がん細胞でよく見られるものもあり、安全性を高めるための研究が進められています。
2. 作るのに手間とコストがかかる
一人ひとりの細胞から作るには、時間・お金・技術が必要です。
大量に安定して作るためには、新しい培養技術や自動化のしくみが必要とされています。
3. すぐにすべての人に使えるわけではない
今は限られた病気や研究機関で、慎重に使われている段階です。
誰でもすぐに治療を受けられる「市販の医療」になるには、まだ時間がかかります。
倫理的な問題って何?
iPS細胞は、ES細胞と違って受精卵を使わないため、倫理的に「安心」だと思われがちです。
でも、それでも新たな倫理の課題が出てきています。
1. 生殖細胞への利用と“人づくり”の問題
iPS細胞から**精子や卵子のような細胞(生殖細胞)**を作ることも理論的には可能です。
そうなると、「赤ちゃんを人工的に作る」「遺伝子を操作する」といった、人間の生命そのものに関わる問題が起こるおそれがあります。
これはクローン技術やデザイナーベビーのような議論につながるため、国際的にも慎重な対応が求められています。
2. 特許や商業化の問題
iPS細胞に関する技術は、特許によって守られています。
しかし、医療が特定の企業や国のものになってしまうと、不公平が生まれる可能性もあります。
だれが使えて、だれが利益を得るのか、という視点も大切です。
3. 研究に使われる細胞の出どころ
iPS細胞の研究には、もとの細胞(皮膚や血液など)を提供してくれる人が必要です。
その際、「何に使われるかを正しく説明されたうえで、同意が取られているか」が重要なポイントです。
これはインフォームド・コンセントと呼ばれ、医学研究の基本となっています。
日本や世界ではどう対応しているの?
iPS細胞に関する倫理問題について、日本では文部科学省や厚生労働省がガイドラインを定めています。
また、京都大学iPS細胞研究所では、専門の倫理チームが研究と社会との橋渡しを行っています。
世界でも、国ごとにルールや法律が異なるため、国際的な連携や対話が重要になっています。
【おやこトークタイム!】子どもに伝える方法
iPS細胞はすばらしい技術だけど、「すごいからなんでもOK」ではありません。
どこまでやっていいのか?どう使うのが人にとって正しいのか?を一緒に考えてみることが大切です。
子どもにこう話してみよう
iPS細胞って、人の体を助けるために作られたすごい細胞だけど、使い方を間違えると大変なことにもなるんだ。
たとえば、人を勝手に作ろうとしたり、勝手に細胞を使われたらイヤだよね。
だから、どんなに便利なものでも、「どうやって使うか」が大切なんだよ。
科学って、ただすごいだけじゃなくて、「心」や「ルール」といっしょに動いていくものなんだ。
まとめ
- iPS細胞にはがん化リスクや高コストなど、技術的な課題がある
- 生殖細胞の作成、特許、細胞の提供などに関して、倫理的な議論が必要とされている
- 日本や世界では、ガイドラインや倫理委員会を設け、慎重に研究が進められている
- 科学と倫理はセットで考える必要があり、親子で「正しい使い方」を考えることが大切
科学の力が強くなればなるほど、「どう使うか」という問いも大きくなります。
iPS細胞は、命を助ける技術だからこそ、その使い方や考え方を、みんなで丁寧に考えていく必要があるのです。