ガラスなのにハンマーで叩いても壊れない。そんな不思議な強さを持つ「オランダの涙(プリンスルパートの涙)」。
一般的なガラスは衝撃に弱いことで知られていますが、このしずく状のガラスだけは別格。通常のガラスの何十倍もの強度を持ち、落としても叩いてもびくともしません。
この記事では、「なぜオランダの涙は割れないのか?」という問いに、科学的な視点から答えます。**割れない理由=“尻尾があるから”**という核心にも迫ります。
オランダの涙が壊れない「頭の部分」に注目
まず知っておきたいのは、オランダの涙の丸い部分(しずくの頭)は非常に壊れにくいことです。
- 金属ハンマーで叩いても割れない
- 高いところから落としても砕けない
- 他のガラスとは明らかに異なる反応を示す
この驚異的な強さの理由は、「圧縮応力」という物理現象にあります。
内部に隠された圧縮応力の働き

オランダの涙は、溶けたガラスを冷水に落とすことで作られます。冷却の過程で表面と内部に温度差が生まれ、**“引っ張られる内側”と“縮む外側”**という応力構造が固定されます。
- 外側(表面)→ 急冷される → 収縮して圧縮応力が発生
- 内側(中心)→ ゆっくり冷える → 引張応力(ひっぱられる力)が残る
この結果、表面は強い圧縮状態にあり、傷がついても応力によってヒビが中に進みにくくなるのです。
一般のガラスは、傷や欠けからヒビが進行しますが、オランダの涙の丸い部分はこの圧縮応力に守られているため、非常に割れにくくなっています。
尻尾があるからこそ「割れない」
ここで注目すべきなのが、細長い「尻尾」の存在です。
尻尾には引張応力が集中していますが、実はこの尻尾があることで、ガラス全体の応力バランスが保たれているのです。
- 圧縮応力と引張応力は常に釣り合って存在
- 尻尾が壊されない限り、内部の不安定さ(引張力)は外に漏れない
- 尻尾があることが「安全弁」のような役割を果たしている
つまり、「割れない」という特性は、尻尾が無傷であることが前提。
逆にいえば、尻尾にわずかな刺激が加わると、たちまち全体が崩壊してしまいます。
▶ 関連記事:オランダの涙はなぜ割れる?割れる瞬間の仕組みと驚きの強度
モース硬度では語れない強度の正体

「オランダの涙はダイヤモンドより硬いの?」という疑問を持つ人もいますが、それは少し違います。
- モース硬度(ひっかき傷のつきにくさ)はガラスとしては通常レベル(約5.5)
- 強度とは「壊れにくさ」=応力構造による特性
つまり、素材自体が硬いというよりも、内部構造が特殊だからこそ強くなるのです。
この違いは、金属やセラミックなどの複合材料の強度設計にも応用されており、科学的にも非常に重要な概念です。
尻尾を切るとどうなる?その意味とは
一見、細くて脆そうな尻尾ですが、ここに手を加えると、全体が一瞬で崩壊します。
それはまるで、膨らんだ風船に針を刺したように、圧縮と引張のバランスが一気に崩れるからです。
- 尻尾にヒビ → 応力の逃げ道ができる → 残留エネルギーが一斉解放
- 破壊速度は秒速2000〜4000m(光速の1万分の1)
この現象は、「残留応力の連鎖崩壊」とも呼ばれ、ハイスピードカメラでなければ追えないレベルの速さです。
▶ 関連記事:銃弾・プレスでも割れない?オランダの涙の破壊実験まとめ
親子トークタイム!子どもに伝える方法
子どもにとって、「割れないガラス」は魔法のような話。ですがそこには、物理のしくみと見えない力が働いています。
オランダの涙の“強さ”を通じて、目に見えない世界の法則にふれる体験になります。
子どもにこう話してみよう!
「このガラスのしずくは、とっても強くて叩いても壊れないんだよ。
でも実は、中にはたくさんの“ギューッ”っていう力がたまっててね、
それを支えてるのがしっぽの部分なんだ。
しっぽをそっと切っちゃうと、そのギューッが『バン!』って一気に広がってこわれちゃうの。
だから、しっぽがあるおかげで強く見えるんだね!」
実験動画を一緒に見ることで、さらに理解が深まります。
まとめ
- オランダの涙が「割れない」のは、表面に強い圧縮応力がかかっているから
- 圧縮応力は傷の進行を防ぎ、ガラスを驚くほど丈夫にする
- 細い尻尾には引張応力が集中しており、これを壊すと全体が崩壊する
- 尻尾が存在することで、全体の応力バランスが保たれている
- 強さの理由は素材そのものではなく、構造にある